経験がルールになっていない
熟練担当者は申請書を見れば違和感に気づけても、その判断条件を最初から一覧で説明することは困難でした。
大手自動車グループのIT企業で、グループ各社から届くITサービスの申請を確認する業務を対象に、熟練担当者の経験に依存していた判断基準を整理。申請書を自動でチェックし、不備を返せる仕組みの試作と現場試用まで支援しました。
※ 守秘義務に配慮し、企業名、内部システム名、個別の判断ルール、具体的な業務量は非公開・抽象化しています。
グループ各社が新たなITサービスを利用するとき、申請書が一か所に集まり、その内容を確認してから次の処理へ進める業務がありました。
申請書の確認自体は外部の委託先が担い、判断に迷う場合だけ社内担当者へ確認する運用でした。長年の運用で業務は回っていた一方、申請量が多く、確認担当者の負荷が高い状態が続いていました。
さらに大きな課題は、「何をもって問題なしと判断するか」が担当者の経験の中にあり、明文化されていなかったことです。業務を社内で扱いやすくし、自動化するには、まず暗黙の判断を再現できる形へ変える必要がありました。
「判断基準を教えてください」と聞くだけでは、普段無意識に行っている仕事をすべて説明することはできません。
熟練担当者は申請書を見れば違和感に気づけても、その判断条件を最初から一覧で説明することは困難でした。
同じ項目でも申請内容の組み合わせによって確認ポイントが変わるため、単純なチェックリストだけでは不足しました。
一度自動化して終わりではなく、業務ルールが変わったときに担当者側で見直せる形にする必要がありました。
抽象的な質問ではなく、具体的な申請ケースを目の前に置き、「どこを見るか」「なぜ戻すか」を一つずつ確認しました。
申請を受け取ってから確認、差し戻し、完了までの流れを整理し、誰がどこで判断しているかを明らかにしました。
実際の申請パターンをもとに、問題になる条件や例外を質問できる資料を作成。現場担当者とのヒアリングを繰り返しました。
会話から得た知識を、誰が見ても同じ判断ができる条件へ変換。抜けや矛盾が見つかれば再度担当者へ確認しました。
申請書から必要な情報を読み取り、整理した判断ルールに照らして不備を指摘する仕組みを作りました。
作成者だけで判断せず、実務を知る担当者が実際の業務を想定して試用。判断の不足や使いにくさを確認しました。
最終的に、数十件規模の業務ルールを言語化し、Excel形式の申請書を自動チェックできる試作を構築。担当者試用まで進めました。
この案件の価値は、単にチェック処理を自動化したことだけではありません。これまで人の経験として存在していた判断を整理したことで、業務を他の人へ引き継ぎやすくし、将来の改善や自動化を進める土台を作りました。
同じ条件なら同じ確認結果になるよう、判断の考え方を整理しました。
外部委託に依存していた確認業務を、社内で理解・管理できる状態へ近づけました。
ルールを言葉として残すことで、変更時に「どこを直すか」を把握しやすくしました。
業務側と開発側の間を分断せず、一つの流れとして進めました。
業務ヒアリング、現在業務の整理、要件整理、仕組みの設計、実装、担当者による試用評価までを担当しました。
技術の話から始めず、現場担当者が普段どこを見て何を気にしているかを具体的なケースから聞き出すこと。ヒアリング資料を作って会話し、得た内容を整理して再度確認するサイクルを繰り返しました。
業務判断が言語化されていなければ、どれだけ高性能なAIを用意しても安定した自動化はできません。
企業の業務には、「担当者なら分かる」「いつもこうしている」という知識が多く残っています。そこを飛ばして自動化すると、例外のたびに人へ戻り、結局負担が減らない仕組みになります。
だからこそ、AI導入では業務ヒアリング、判断基準の整理、例外の確認が重要です。この事例では、それらを実装と同じプロジェクト内で進めることで、現場の仕事と自動チェックの仕組みをつなぎました。
業界や業務が違っても、まず仕事を理解してからAIの役割を決める考え方は共通しています。